あの「魔法の靴」が使用禁止に?話題の厚底シューズ・ヴェイパーフライとは一体何者なのか

ナイキの人気シューズである「ヴェイパーフライNEXT%」。厚底シューズとして、一般的にも認知されているランニングシューズです。国内の主要レースでもほとんどの選手が履いているので、「みんな同じ靴履いている」という印象を持つ人も多いでしょう。しかし、この話題のシューズが「使用禁止になるかもしれない」ということで、さらに話題になっています。今回は、「そもそもヴェイパーフライとはどんなシューズ?」という疑問に答え、規制問題についても触れていきます。

記事の目次

  • 箱根駅伝で選手がみんな履いてた「あの靴」が使用禁止に?
  • 「あの靴」の正体。一体何がすごいのか
  • 規制によってどんな影響がある?
  • 今後のヴェイパーフライの動向に注目!

アイキャッチ画像出典:PIXTA

箱根駅伝で選手がみんな履いてた「あの靴」が使用禁止に?

現在、陸上業界を騒がせているヴェイパーフライNEXT%。先日の箱根駅伝では8割以上の選手がこの靴を履いていたので、「みんな同じ靴を履いている」と思った人も多いでしょう。日本だけでなく世界的なロードレースでも使用されており、ハーフマラソンとマラソンの世界記録はヴェイパーフライNEXT%によって生まれています。

 

しかし、この性能が良いシューズは「好記録を連発している」ということで、世界陸連が規制しようとしており公認レースで使用禁止になるかもしれないのです。現状の世界陸連の発表では、「底の厚さに制限を加える」という方向性のようなので、厚底で有名なヴェイパーフライNEXT%は主要大会で使えなくなる可能性があります。

「あの靴」の正体。一体何がすごいのか

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ヴェイパーフライNEXT%で利用されている主な技術は「カーボンプレート」「ZoomXフォーム」です。

 

陸上のスパイクなどに使われている「プレート」は、力を加えることでしなり、元に戻るときに推進力を生みます。同じようにヴェイパーフライNEXT%でもプレートが使われており、内蔵されているカーボンプレートは、推進力を生むだけでなくエネルギーのロスを抑える効果があるため、マラソンなどの長距離種目に向いています。

 

しかし、このナイキ製のカーボンプレートは「スプーンのような形」をしているため、シューズに組み込もうとすると、どうしても「厚底」になってしまうのです。つまり、「厚底だから速い」のではなく、「性能が良いカーボンプレートだから速い」のです。今までは厚底にするとシューズが重くなってしまうので、カーボンプレートのメリットが打ち消されていたのです。そこで、登場したのが「ZoomXフォーム」です。

 

このZoomXフォームは軽い・クッション性がある・反発力がある、といったランニングシューズにとって夢のような素材であり、厚底にしてもシューズが重くなることはありません。それだけでなく、クッション性があるため体への衝撃を和らげ、マラソンの後半でも失速することなく走りやすくなるのです。また、高い反発力によって効率良く走れる効果もあります。

規制対象はこの靴だけ?

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世界陸連の発表では「底の厚さに制限を加える」ということなので、INEOSチャレンジでキプチョゲ選手が2時間切りを達成したときに履いていた「alpha FLY」も規制対象になるでしょう。もしかしたら旧モデルのヴェイパーフライ4%も規制対象になるかもしれません。

 

ナイキ以外では、同様にカーボンプレートが内蔵されているHOKA ONE ONEの「カーボンX」も規制対象になってしまうのが濃厚です。

撮影:記助

さらに、トラックレースでもヴェイパーフライNEXT%に長距離用スパイクである「ズーム マトゥンボ」のプレートを付けたカスタムスパイクを履いている選手が多いですが、規制対象になる可能性が高いでしょう。

 

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ちなみに、1月12日にスペインのバレンシアで行われてロードレースの10kmで、20歳のロネックス・キプルト選手が26分24秒の世界新記録で優勝しました。10000mの世界記録は26分17秒53なので、非常に素晴らしい記録といえるでしょう。

 

誰もが「また、ヴェイパーフライか。」と思いましたが、キプルト選手が履いていたシューズはアディダスの「アディゼロ タクミ セン6」だったのです。アディゼロ タクミ センは、厚底ではないので、今後使用する選手が増えるかもしれません。

そもそも記録を出した選手はもともと好成績の選手だった?

ヴェイパーフライを支給されているナイキの契約選手の大半は、世界のトップ選手です。実際に、陸上業界では以前から世界のトップ選手はナイキのシューズ・スパイクを履いています。最近ではロードを中心に「勝つため」「記録を出すため」に、他のメーカーからナイキに乗り換えている人も多いです。
※他社の契約選手がナイキのシューズを黒く塗って出場することもあるくらいです。

 

【中長距離の世界記録と使用シューズ】
・800m:デイヴィッド・ルディシャ→アディダス
※世界記録を出したロンドンオリンピックの決勝では、ルディシャ選手以外の選手はみんなナイキのスパイクを履いていました。(ナイキ ズームヴィクトリー)
・1500m:ヒシャム・エルゲルージ→ナイキ
・5000m・10000m:ケネニサ・べケレ→ナイキ (※マラソン世界歴代2位、ヴェイパーフライNEXT%)
・ハーフマラソン:ジョフリー・カムウォロル→ナイキ (ヴェイパーフライNEXT%)
・マラソン:エリウド・キプチョゲ→ナイキ (ヴェイパーフライNEXT%)
※実際には市販されているヴェイパーフライNEXT%ではなく、アッパーやソールがカスタムされているものを使っていることが多いです。

 

つまり、「速い選手にシューズを履いてもらっているから、好記録が出ている」のではなく、「好記録を出すために、速い選手が好んで履いている」シューズなのです。日本でもアディダスと契約しているはずの青山学院大学が「勝つため」に、全員ヴェイパーフライNEXT%を履いて箱根駅伝の王座奪還したのは印象的だったのではないでしょうか。

ヴェイパーフライネクスト%は、世界のトップ選手だけの靴ではない

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従来のヴェイパーフライ4%までは、使いこなすのが難しく上級者向けのシューズといわれていました。実際に「フォアフット走法」「フォア寄りのミッドフット走法」の人に向いています。しかしヴェイパーフライNEXT%はシューズの構造も改良されており、市民ランナーでも履けるようになっています。軽くて走りやすく皇居ランナーにも人気があり、パフォーマンスの向上に貢献しています。

規制によってどんな影響がある?

世界陸連がヴェイパーフライを規制しようとしている最大の理由は、世界記録などの好記録が出るペースが早すぎることを疑問視しているからです。

 

INEOSチャレンジでキプチョゲ選手が履いていた「alpha FLY」は「トランポリンシューズ」と揶揄されるように、ソールの中央にエアユニットがあり、バネのような役割があるので規制されるのは仕方がないと思います。

 

しかし、現状のヴェイパーフライNEXT%にはエアユニットはなく、ヴェイパーフライ4%と同じカーボンプレートを使っているので、規制するのであれば納得できる根拠が欲しいところです。

東京五輪への影響は未知数

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今回のヴェイパーフライ問題によって、大きな影響を受ける直近のイベントは東京五輪です。既に日本では代表選手は2名ずつ(中村匠吾選手、服部勇馬選手、前田穂南選手、鈴木亜由子選手)が内定しています。前田選手以外の3選手はマラソン日本代表選手選考レース「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」でヴェイパーフライを使っていました。
※前田選手はアシックスのカスタムシューズ

 

オリンピックのマラソンコースが北海道に変わったことの影響も計り知れませんが、このシューズの問題も大きな影響を与えるでしょう。もし、オリンピック直前に使用禁止になれば、多くの選手から反発が生まれることは想像に難くありません。マラソン日本記録保持者の大迫選手も「どちらにせよ、早く決めて欲しい」と述べています。

 

アメリカのマラソンの代表選考レースでは、複数の選手が「alpha FLY」を履くのではないかと噂されています。トラックでも10000mに出場する選手がヴェイパーフライを使用したり、ヴェイパーフライにスパイクプレートをカスタムしたシューズを履くことが予想されるため、使用禁止になれば長距離種目全体に大きな影響が出るのは間違いありません。

テクノロジーの進化を止めることになるかもしれない

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もちろん、ランニングシューズを作っている各メーカーにも影響があります。ナイキは現在のヴェイパーフライNEXT%を作るまでに、研究・開発費やプロモーションに莫大なお金をかけています。また、世界のトップメーカーが既存の世界陸連が定めた「ルールを破る」シューズを開発したとは考えにくいです。長い時間をかけて完成し2017年に登場したヴェイパーフライシリーズは、2年の歳月を経てマラソンの公認コースで世界記録を樹立したのです。

 

つまり、頑張って開発したシューズでも後出しのルールによって禁止されることになれば、全て「無駄な努力」になってしまうでしょう。そうなれば、各メーカーはリターンを得られないので、新しいシューズ開発にエネルギーを注がなくなり、テクノロジーの進化を止めることになりかねません。

今後のヴェイパーフライの動向に注目!

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世界陸連がヴェイパーフライを禁止すれば、陸上競技の公式レース・公認レースでは同様のルールが適用されます。問題は陸連登録していない市民ランナーが出場するマラソン大会でも規制される可能性があることです。もし、このようなレースでは禁止されなくても、「使用不可シューズを履いている」と周囲の選手から思われ、自由に履けなくなる「空気」が生まれるのが怖いところです。

 

陸上競技の安全性やパフォーマンスは、各メーカーのテクノロジーの発達に支えられています。例えば、棒高跳びのポールは木製から竹製に変わり、今ではヴェイパーフライと同じようにカーボンが使われて記録が大幅に伸びましたが、禁止されることなく主流になっています。むしろ、今の時代に竹製のポールを使っている人はいないでしょう。今回の問題により、各メーカーのイノベーションに影響が出るかもしれません。

 

個人的には、ヴェイパーフライは「一度は履いてみたい」という思いはありますが、今後使用禁止にならないとしても、自己ベストを狙うレースでは使いたくありません。以前からヴェイパーフライの性能は非常に高かったため、「本当に自分の実力なのか?」という疑問がどうしても生まれて、結果に納得できない気がするからです。ただし、ヴェイパーフライが使用禁止にならないのであれば、「駅伝」に出るときは絶対に履きたいと思います。そして「チームメンバーにも履いて欲しい」ときっと思うでしょう。

 

最終的に競技で使用する道具を決めるのは選手自身です。いずれにせよ、東京オリンピックが近いこともあるので、世界陸連には使用の可否を早く決めてもらいたいところです。

   

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記助
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記助

元800mランナー。100mからマラソンまで、観戦するのも走るのも好きです。楽しく走る方法や速く走るためのトレーニングを主に公開するので、お役に立てたら幸いです。